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2024年改正で変わるマンション相続税|新ルールの計算方法と対策を税理士が徹底解説

 2024年からマンションの相続税評価額に関するルールが大きく改正され、特にタワーマンションの評価方法に注目が集まっています。
 本記事では、新しい評価方法の詳細や、相続税の計算手順、節税対策を分かりやすく解説します。マンションを相続する際の注意点やよくある質問にも答え、相続税負担を軽減するための実践的なアドバイスを提供します。相続税対策にお悩みの方は必見です。

目次

マンション相続税の計算方法|相続税評価額を基準にした算出方法

 マンションを相続した際に発生する相続税は、相続税評価額を基に算出されます。相続税評価額とは、相続税や贈与税の計算において基準となる金額のことです。相続税法では「財産の取得時点での時価を基準とする」と定められていますが、実際の評価額は、相続税法および相続税財産評価基本通達(通達)に基づいて計算されます。

マンションの相続税評価額の計算方法

 相続したマンションの相続税評価額も、通達に基づいて計算されます。土地建物に分けて評価し、建物の評価額は固定資産税評価額を基準に、土地の評価額は路線価方式または倍率方式で算出されます。

マンションの相続税評価額が低くなりやすい理由

 一般的に、マンション1室の相続税評価額は戸建て住宅よりも低くなりがちです。これは、マンションの敷地が広くても多くの入居者で共有されており、1室あたりの土地面積が小さいためです。さらに建物部分も評価が低く算定されることが多く、特に高層マンション(いわゆるタワーマンション)の高層階ほど相続税評価額が小さくなる傾向があります。このことから、タワマン節税として知られる節税手法が注目を集めていました。

マンションと戸建ての相続税評価額の違い

 改正前の戸建てとマンション1室の相続税評価額を比較すると、マンション1室の評価額は土地の面積が少ないため、戸建て住宅よりも大幅に低いという特徴がありました。また、高層階のマンションほど、実際の時価と相続税評価額の乖離が大きくなるという問題も見られました。

マンション1室における相続税評価の新ルール|2024年改正の背景とポイント

 国税庁は、2024年(令和6年)1月1日以降に相続や贈与で取得される区分所有マンションの評価額計算ルールを変更すると発表しました。ここでは、評価額計算方法の見直し背景と新ルールの詳細について解説します。

タワーマンション節税ルール改正の背景

 タワーマンション節税ルールの改正は、相続税評価額と市場価格との大幅な乖離が原因となっています。

参考・画像引用:国税庁「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について」

 国税庁のデータによれば、平成30年の乖離率(市場価格÷評価額)の平均値は、マンションが2.34倍、戸建て住宅が1.66倍となっています。

 具体的には、戸建て住宅の相続税評価額は市場価格の約60%であるのに対し、マンションは約42.7%です。例えば、市場価格が2億円のマンションの場合、相続税評価額は約8,540万円となります。さらに、国税庁の別資料では、マンションの階層が高くなるほど乖離率も大きくなることが示されています。特に総階数20階以上のタワーマンションでは、乖離率が3.16倍に達しています。

 このような状況により、タワーマンションの相続税評価額が市場価格とかけ離れることで、公平な課税が損なわれる恐れが指摘されていました。その結果、路線価方式での評価が税務署から否認されるケースも発生しています。

改正の大きなきっかけとなった|2022年4月19日最高裁判決

 この事例では、被相続人が10億円を借入れ、13億円で2棟のマンションを購入。相続人は財産評価基本通達を用いて評価額を3億3,000万円とし、他の相続財産と借入れを差し引いて相続税を0円と申告しました。しかし、国税庁はこの過度な節税対策を問題視し、不動産鑑定士による評価額約12億7,000万円を適用。結果、相続人側に約3億円の追徴課税が課されました。
参考:最高裁判所判例集(2022年4月19日)|裁判所

 このような過度な節税手法への対策として、タワーマンションを含む区分所有マンションの評価方法が見直されることとなりました。

ルール改正による変更点

 新ルールでは、不動産の相続税評価に「評価乖離率」と「評価水準」という新たな指標が導入されます。これにより、マンションの市場価格と相続税評価額の乖離率が1.67倍以上の場合、相続税評価額が市場価格の60%となるように補正されます。
 この60%という数値は、戸建て住宅の市場価格と評価額の平均乖離率を基に設定されています。

評価水準と相続税評価額の関係

区分所有マンション評価額の計算式
 区分所有マンション評価額 = (区分所有権の通達評価額 × 区分所有補正率) + (敷地利用権の通達評価額 × 区分所有補正率)
区分所有補正率
 評価水準が1を超える場合:区分所有補正率 = 評価乖離率
 評価水準が0.6未満の場合:区分所有補正率 = 評価乖離率 × 0.6
評価乖離率の計算式
 評価乖離率 = -A + B + C – D + 3.220
  A:築年数 × 0.033(※築年数1年未満は1年として計算)
  B:総階数 ÷ 33 × 0.239(※総階数 ÷ 33が1.0を超える場合は1.0で計算)
  C:所在階 × 0.018(※地階は0として計算)
  D:敷地持分狭小度 × 1.195(※敷地利用権の面積 ÷ 専有面積)
評価水準
 評価水準 = 1 ÷ 評価乖離率

評価水準と相続税評価額の関係

評価水準補正後の相続税評価額の計算式
0.6未満財産評価基本通達による相続税評価額 × 評価乖離率 × 0.6
0.6以上1以下財産評価基本通達による相続税評価額(補正なし)
1超財産評価基本通達による相続税評価額 × 評価乖離率
参考:国税庁「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」

 評価乖離率が1.67倍を超える場合、評価水準は0.6を下回り、相続税評価額が増額されます。一方、評価水準が1を超えると、相続税評価額が減額される仕組みです。

ルール改正による評価額の違いを具体例を用いて確認

ケース1:市場価格2億円、現行の相続税評価額6,000万円の場合

【前提条件】

・市場価格:2億円
・財産評価基本通達による相続税評価額:6,000万円
・築年数:5年
・総階数:35階
・所在階:32階
・敷地面積:4,000㎡
・対象戸室の敷地権割合:3/100
・対象戸室の専有面積:90㎡

【評価乖離率の計算】

A:5年 × 0.033 = 0.165
B:1.0 × 0.239 = 0.239(※総階数÷33が1.0を超えるため1.0で計算)
C:32階 × 0.018 = 0.576
D:((4,000㎡ × 3/100) ÷ 90㎡) × 1.195 = 1.593

評価乖離率 = -0.165 + 0.239 + 0.576 – 1.593 + 3.220 = 2.277
・評価水準:1 ÷ 2.277 = 0.439
・新ルールによる相続税評価額:6,000万円 × 2.277 × 0.6 = 約8,204万円

結果として、現行の評価額6,000万円から約2,204万円増加し、8,204万円となります

 新ルールでは、築年数が浅く高層階のマンションほど評価乖離率が高くなり、相続税評価額も増加する傾向にあります。

新ルールが適用される物件

 今回の通達改正は、主に居住用の1室マンションが対象です。事業用のテナントや、1棟所有の賃貸マンションなどの不動産については、従来通りの相続税評価方法が適用されます。

マンション相続税対策の可能性は残る

 新ルールにより、いわゆる「タワマン節税」の効果は低減しますが、依然としてマンション相続税対策は可能です。不動産を相続することで、現金よりも相続税を抑えることができるため、節税効果が完全になくなるわけではありません。
効果的な対策を講じるためには、以下のポイントを押さえることが重要です。

専門家への相談:相続税専門の税理士や不動産コンサルタントに相談し、最適な対策を検討する。
資産状況の把握:自身の家族構成や資産状況を正確に把握し、適切な節税策を選択する。
多角的な資産運用:不動産以外の資産も組み合わせ、多角的な相続税対策を検討する。
早めの計画立案:法改正や市場動向を踏まえ、早期に計画を立てて実行する。

新ルール適用後も、不動産は現金や有価証券と比較して相続税評価額が低く算出されるメリットがあります。適切な知識と計画的な対策を講じることで、効果的な相続税対策を実現することが可能です。

マンションの相続税評価額|計算手順を分かりやすく解説

 マンションを相続した場合、相続税評価額を正しく計算することが必要です。ここでは、マンションの相続税評価額の計算方法について、建物、土地、賃貸用物件に分けて詳しく解説します。

マンション建物部分の相続税評価額の計算方法

 マンションの建物部分の相続税評価額は、固定資産税評価額を基に次のように計算されます。

【建物部分の相続税評価額の計算式】

・固定資産税評価額 × 1.0 × 区分所有補正率

 固定資産税評価額は、市区町村から送付される固定資産税の課税明細書に記載されています。たとえば、固定資産税評価額が7,000万円の場合、そのまま相続税評価額も7,000万円となります。
参考:土地家屋の評価|国税庁

マンションの土地部分の相続税評価額の計算方法

 マンションの土地部分は、各所有者が持つ敷地権に基づいて評価されます。敷地権の相続税評価額の計算式は以下の通りです。

【敷地権の相続税評価額の計算式】

・マンション敷地全体の評価額 × 敷地権割合 × 区分所有補正率

 たとえば、マンション全体の敷地評価額が50億円で、あなたの所有する敷地権割合が10,000/5,000,000である場合、土地部分の評価額は1,000万円となります。

 敷地全体の評価額は、路線価方式または倍率方式で算定され、登記事項証明書に敷地権割合が記載されています。

賃貸用マンションの相続税評価額の計算方法

 相続したマンションが賃貸用物件の場合、相続税評価額はさらに低くなる可能性があります。土地部分は「貸家建付地」、建物部分は「貸家」として評価されるためです。賃貸物件の計算方法は以下の通りです。

【敷地部分の計算式】

・土地の評価額 × (1-借地権割合 × 借家権割合) × 区分所有補正率

【建物部分の計算式】

・建物の固定資産税評価額 × (1-借家権割合) × 区分所有補正率

 借地権割合は地域によって異なりますが、一般的に30~90%の範囲です。一方、借家権割合は全国一律で30%となっています。

1棟マンションの相続税評価額の計算方法

 賃貸用の1棟マンションを相続した場合、計算方法は次のようになります。

【敷地部分の計算式】

・土地の評価額 × (1-借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

【建物部分の計算式】

・建物の固定資産税評価額 × (1-借家権割合 × 賃貸割合)

マンション相続で活用できる控除・特例|相続税負担を軽減する方法

 高額なマンションを相続しても、適切な控除や特例を利用することで、相続税の負担を軽減することができます。ここでは、マンション相続で使える代表的な控除・特例について詳しく解説します。

配偶者の税額軽減制度

 配偶者の税額軽減を活用すると、配偶者が亡くなった人から相続や遺贈によって取得した財産に対して、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額まで相続税がかからないという制度です。配偶者の相続税負担を大幅に軽減できる強力な制度ですが、適用するためには必ず相続税の申告が必要です。
参考:配偶者の税額の軽減|国税庁

小規模宅地等の特例|最大80%減額可

 小規模宅地等の特例を利用すれば、相続したマンションの敷地の相続税評価額を最大80%減額することが可能です。この特例は、居住用や賃貸用のマンションにも適用されますが、所定の要件を満たす必要があります。この特例を適用する際も、必ず相続税の申告が必要です。
参考:相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁

その他の控除制度

 さらに、特定の条件に当てはまる場合、以下のような控除制度を利用して相続税を抑えることができます。

未成年者の税額控除:未成年者が相続人の場合に適用され、一定額を相続税から控除可能。
障害者の税額控除:障害者が相続人の場合、一定額の控除が適用されます。
相次相続控除:短期間で相次いで相続が発生した場合、相続税を軽減する制度です。

これらの制度を活用することで、マンション相続時の相続税負担を大幅に軽減することができます。条件に応じて、最適な制度を選択しましょう。
参考:未成年者の税額控除|国税庁
参考:障害者の税額控除|国税庁
参考:相次相続控除|国税庁

マンションを相続する際の重要な注意点|トラブル回避のために知っておくべきこと

 マンションを相続する際には、いくつかの重要な注意点があります。これらを把握し、適切な対応を取ることで、相続手続き相続税の問題をスムーズに進めることができます

相続税の申告・納付期限は10カ月以内

 相続税は、相続したマンションを含む遺産総額が基礎控除額を超える場合に必要です。この相続税の申告および納付は、相続が発生した日から10カ月以内に行わなければなりません。この期限は、財産の持ち主が亡くなったことを知った日の翌日からカウントされます。

 相続財産の評価や相続税の計算には時間がかかるため、財産調査相続人の確認遺言書の有無など、事前の準備を早めに始めることが重要です。期限内に手続きを完了するためにも、早めの対策を心がけましょう。

共有名義による相続はトラブルの元

 マンションを共有名義で相続する場合、初期段階では遺産分割協議が円滑に進むかもしれません。しかし、相続が繰り返されると、相続人が増え、将来的にトラブルが発生するリスクが高まります。共有財産は、共有者全員の合意がないと売却などの処分ができないため、意思決定が難しくなります。

 そのため、共有名義は早めに解消することが望ましい場合があります。相続の円滑な進行を維持するためにもマンションの名義整理を検討しましょう。

相続後の費用に注意

 マンションを相続した後も、さまざまな費用が発生することを忘れてはいけません。まず、管理組合への名義変更手続きが必要となり、この際に一定の手数料がかかる場合があります。また、毎月の管理費や修繕積立金の支払いが求められるほか、居住や賃貸を考える場合には、室内のクリーニング費用なども発生します。これらの費用を見落とすと、後々の負担が大きくなる可能性があるため、事前にしっかりと計算しておくことが大切です。

マンションの相続税に関するよくある質問

 マンション相続に関する相続税の疑問について、多くの方が抱える質問にお答えします。ここでは、タワマン節税相続税の納税方法について詳しく解説します。

Q1. なぜ居住用マンションに限定されているのですか?

 居住用マンション以外のテナント物件や一棟ビルは流通性・市場性が低く、適切な評価乖離率の算定が難しいため、今回の改正は居住用マンションに限定されています。

Q2. 新ルールでタワマン節税はもうできなくなりますか?

 一概にタワマン節税が完全にできなくなるとは言えません。新ルールでは、マンション1室の相続税評価額が時価の6割に満たない場合、評価額が6割に調整されます。これにより、従来のような大幅な節税効果は期待できなくなりますが、相続税対策としての効果が完全に失われるわけではありません。

 マンションの購入や相続税対策としての有効性については、事前に税理士に相談することを強くおすすめします。専門家のアドバイスを受けることで、最適な相続税対策を見つけることができます。

Q3. 相続税の納税が難しい場合、どうすればいいですか?

 相続税の納税は、現金一括納付が原則です。しかし、納税が難しい場合には、いくつかの選択肢があります。

物納制度:相続したマンションなどの不動産を相続税の代わりに納める制度ですが、要件が厳しく、適用されるケースは限られます。
延納制度:相続税を分割して納付する方法で、担保の提供が必要です。延納期間中には利子税も発生します。
不動産担保ローン:マンションを売却せずに済むよう、不動産を担保にローンを組むことも検討 できます。ただし、資金調達のめどが立たない場合、最終的には売却を検討せざるを得ない場合もあります。

 相続税の納税に関しては、早めの計画と準備が重要です。専門家に相談し、最適な方法を選択することが賢明です。

相続対策は当事務所にお任せください|専門家が最適な方法をご提案

 マンションの相続税評価方法が見直され、評価倍率が1.67倍を超えるタワーマンションの相続や贈与時には、相続税評価額が市場価格の60%となるよう調整されることになりました。これにより、単に高層階の部屋を購入するだけでは、従来のように相続税を大幅に軽減する効果は期待できなくなっています。

 しかしながら、不動産が相続対策として効果を失ったわけではありません。今後の相続対策を考える際には、相続に精通した税理士に相談し、ご自身に最も適した方法を選ぶことが重要です。

 相続対策をご検討中の方は、ぜひ齋藤久誠公認会計士・税理士事務所にご相談ください。当事務所では、ご相談者様の状況を丁寧にヒアリングし、最も効果的な相続対策方法をご提案いたします。

 さらに、相続が発生した際には、相続税の計算申告書類の作成申告手続きまで、すべてを代行いたします。不動産の取得や生前贈与など、相続対策に関するご相談も、ぜひ一度齋藤久誠公認会計士・税理士事務所にお問い合わせください。

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