財産管理
家族信託と成年後見・任意後見の違いとは?制度・費用・選択基準を解説
認知症による資産凍結に備える方法として「家族信託」と「成年後見制度」があります。
そして「成年後見制度」の中でも、認知症になってしまった後に行う「成年後見」と事前の対策法としての「任意後見」があります。
しかしながらきちんと中身を比べずに選んでしまうと思いもよらぬ後悔につながることも。なぜならこの3つの制度は、全く異なる特徴を持っているからです。
「成年後見」「任意後見」と「家族信託」どの制度がそのご家族に合っているのかは、本人(とそのご家族)が置かれている状況によって変わります。
今回の記事は、家族信託がよいのか、成年後見、任意後見がよいのか、各制度の違いと費用、メリット・デメリット、選択基準をお伝えします。
この記事のポイントは下記の通りです。
・「家族信託」と「成年後見」「任意後見」どれも財産管理ができる制度だが、家族や資産状況によって選択すべきケースが異なる
・積極的な財産管理を行いたいのであれば「家族信託」がおすすめ
・身上監護が必要なら「任意後見」「成年後見」がおすすめ
・家庭裁判所の関与を避けたいのなら、家族信託がおすすめ
・家族信託ではできない身上監護をカバーするため、家族信託と任意後見の併用もできる
・どの制度がいいのか利用目的や第三者の介入、費用を考え「家族信託」と「成年後見」「任意後見」を専門家と相談しながら決めるべき
目次
家族信託と成年後見・任意後見制度
家族信託と成年後見・任意後見制度は、いずれも高齢者や障がい者の財産管理を家族や特定の人に任せるための重要な制度です。特に、認知症の進行や意思決定能力の低下による資産凍結対策として、高齢化社会でますます注目されています。
家族信託とは |財産管理の柔軟な選択肢
家族信託は、信託契約に基づき、家族が本人の資産を管理・運用することができる制度です。この制度を活用することで、家族内で資産の継承や高齢者の財産管理をスムーズに行うことができます。特に、認知症などで判断能力が低下した場合でも、家族が主体となって柔軟な財産管理を行えるため、成年後見制度や任意後見制度に比べて高い自由度があります。
・メリット:家族内での資産管理が可能。柔軟な運用ができ、本人の意向を反映しやすい。
・活用場面:高齢者や障がい者の資産管理、相続対策、財産の有効活用。
成年後見制度とは |法的な保護を提供する制度
成年後見制度は、判断能力が低下した高齢者や障がい者の権利や財産を守るための法的制度です。家庭裁判所が選任する成年後見人が、財産管理や日常生活の支援を行います。特に、認知症などで自己判断が難しくなった場合に、本人の利益を守るための重要な制度として活用されています。
・成年後見人の役割:家庭裁判所が指定し、財産管理や生活支援を担う。家族だけでなく、司法書士や弁護士が選任されることもある。
・注意点:成年後見制度を利用する際には、家庭裁判所の関与や報告義務が生じるため、手続きが複雑になることがあります。
任意後見制度とは|本人の意向を反映する財産管理
任意後見制度は、本人が意思決定能力を持っているうちに、事前に後見人を選任しておく制度です。将来のために後見人を指定し、財産管理や生活支援を事前に取り決めることができます。この点で、家族信託と似ていますが、成年後見制度よりも柔軟性が高く、本人の希望が強く反映されます。
・メリット:意思決定能力があるうちに後見人を選べるため、将来的な安心感が高い。
・注意点:家庭裁判所が選任した任意後見監督人の監督を受けるため、家族信託ほどの自由な財産管理は難しい場合がありますが、厳格な管理による安心感があります。
家族信託、成年後見制度、任意後見制度のいずれの制度も、本人や家族が直面する課題に対する法的保護とサポートを提供するために設計されています。それぞれの特徴を理解し、状況に応じて適切に活用することで、安心した生活の基盤を築くことが可能です。
家族信託と成年後見、任意後見の違い
家族信託、成年後見、任意後見の3つの制度は、本人の財産管理をサポートするためにそれぞれ異なる方法で役立ちます。受託者、成年後見人、任意後見人がどのように財産管理を行うのか、その違いを詳しく見ていきましょう。
家族信託で受託者ができること
家族信託における受託者とは、本人(委託者)から託された財産を管理し、運用する責任を持つ人です。財産の名義は受託者に移るため、受託者は「形式上の所有者」となります。
・受託者の権限:受託者は信託財産の保存行為や、収益を目的とした運用行為を行うことができます。また、信託契約に基づき、不動産の購入や売却、借入行為なども可能です。
・柔軟な財産管理:家族信託の最大のメリットは、契約内容を自由に設定できる点です。例えば、受託者が不動産を売却して新しいアパートを建てるなど、契約に基づいて柔軟に財産管理が行えます。
・身上監護の制限:家族信託では財産の管理に特化しているため、生活環境の整備や施設への入所手続きなどの身上監護権は認められません。この領域は成年後見や任意後見がカバーします。
家族信託の特徴
・家庭裁判所の関与なし:成年後見や任意後見と異なり、家庭裁判所の介入がなく、家族だけで財産を管理できます。事務手続きも簡素化され、時間や費用の節約にもなります。
・判断能力があれば契約可能:委託者の判断能力がある限り、信託契約はいつでも結べます。契約時点で効力を発生させるか、将来のタイミングで効力を発生させるかを決めることもできます。
成年後見制度での成年後見人の役割
成年後見制度では、本人が判断能力を失った後、家庭裁判所によって成年後見人が選任されます。成年後見人は、財産管理と身上監護の両方を担当します。
・成年後見人の権限:成年後見人は本人の財産管理に加えて、生活環境の整備や施設入所手続きなどの身上監護も行います。成年後見人の権限には、本人が誤って結んだ不適切な契約を取り消す取消権も含まれています。
・家庭裁判所への報告義務:成年後見人は、財産の状況や被後見人の生活状況を定期的に家庭裁判所へ報告する義務があります。通常、1年に1回の報告が必要です。
成年後見制度の特徴
・全面的なサポート:財産管理だけでなく、日常生活のサポートも含まれており、認知症などで判断能力を失った方を包括的に保護します。
任意後制度での任意後見人の役割
任意後見制度は、本人が判断能力を有している間に、事前に任意後見人を選び契約を結ぶ制度です。任意後見人は、財産管理と身上監護を支援しますが、その権限は家族信託や成年後見とは異なります。
・任意後見人の権限:任意後見人は、任意後見契約に基づいて財産管理や身上監護を行います。例えば、銀行口座の管理や不動産売却、老人ホーム入居手続き、医療契約などが含まれます。
・取消権はなし:任意後見人には取消権がないため、成年後見人のように不適切な契約を無効にすることはできません。ただし、契約内容に特別な規定がある場合、クーリングオフや消費者契約法違反による取消しは可能です。
・家庭裁判所の監督:任意後見が開始されると、家庭裁判所が任命した任意後見監督人の監督下で業務を行いま
す。定期的に任意後見監督人に報告し、監督を受ける必要があります。
任意後見制度の特徴
・事前の計画と柔軟性:将来に備えて契約を結ぶため、本人の意向を最大限反映できますが、後見監督人の監視があるため、家族信託ほどの自由度はありません。
家族信託と成年後見、任意後見の費用を徹底比較
家族信託、成年後見、任意後見制度を利用する際にかかる費用について詳しく解説します。これらの制度を検討するうえで、費用面を理解することは非常に重要です。それぞれの制度にかかる実費と専門家への報酬を見ていきましょう。
家族信託の費用
家族信託を利用する際の費用は、大きく分けて2つのカテゴリに分類されます。それは、「実費」と「専門家への報酬」です。
・実費
・公正証書作成費用:費用の相場は3~10万円
・信託登記にかかる登録免許税:固定資産評価額の0.3%~0.4%
・専門家への報酬
・コンサルティング報酬:信託財産評価の1.1%程度
・信託契約書作成報酬:10~15万円
・信託登記報酬:10~15万円
家族信託の具体的な費用については、専門家に相談して見積もりを取ることをおすすめします。
成年後見の費用
成年後見制度を利用する際の費用は「選任手続き費用」と「成年後見開始後の費用」に分かれます。
・裁判所で成年後見人の選任手続きをする際の費用
・必ず必要な費用:申立手数料や書類の取得費用で合計約2万円
・ケースに応じて必要な費用:
・鑑定費用:5~10万円程度
・専門家への支払報酬:10~30万円前後(弁護士や司法書士に依頼する場合)
・専門職後見人への報酬:20万円前後(後見制度支援信託を利用する場合)
・成年後見開始後の費用
・成年後見人への報酬
家族が成年後見人になった場合は無報酬も可能ですが、司法書士や弁護士が後見人になる場合、月額2~6万円の報酬が発生します。特別な困難がある場合は、基本報酬額の50%以内で追加報酬が支払われます。
・成年後見監督人への報酬:選任された場合、月額1~3万円の報酬が必要です。
任意後見の費用
任意後見制度の費用は3段階で発生します。
・任意後見契約を結ぶ際の公正証書作成手数料:
・自分で手続きをする場合は約2万円。専門家に依頼すると10万円前後がかかります。
・任意後見開始時の任意後見監督人選任の申立て費用:
・約1~2万円の費用がかかります。必要に応じて、裁判所が鑑定を命じる場合は5~10万円の鑑定費用が発生します。
・任意後見開始後の任意後見人・任意後見監督人への報酬:
・任意後見人の報酬は有償か無償かを事前に決定できますが、任意後見監督人への報酬はほぼ必ず発生します。報酬の相場は、財産管理額によって変動し、5,000万円以下の財産の場合は月額11,000円~22,000円、5,000万円を超える場合は27,500円~33,000円程度です。
家族信託、任意後見、成年後見の活用など、ご家族にとってどんな対策が必要か、何ができるのかをご説明いたします。自分の家族の場合は何が必要なのか気になるという方は、ぜひこちらから無料相談をお試しください。
家族信託のメリット・デメリット|財産管理の選択肢としての利点とリスク
家族信託は、財産を家族に託して管理する柔軟な制度として注目されていますが、利用する前にそのメリットとデメリットを理解することが重要です。以下で、家族信託の主な利点とリスクについて詳しく見ていきましょう。
家族信託のメリット
信頼できる家族・親族に財産を託せる
家族信託の最大のメリットは、本人の財産を信頼できる家族や親族に管理を任せられる点です。成年後見制度や任意後見制度とは異なり、家庭裁判所の介入を必要とせず、身近な家族だけで柔軟に財産を管理できるのが特徴です。
死後の財産承継を事前に指定できる
家族信託では、生前に財産管理を行うと同時に、信託財産の承継先をあらかじめ指定することができます。遺言と異なり、家族信託では複数の承継先を指定でき、例えば「自分が死亡した後は妻に、妻が死亡した後は息子に財産を承継する」というように二次相続まで計画を立てられます。これにより、より細かい相続対策が可能です。
経済的負担を軽減できる
家族信託では、成年後見や任意後見制度と異なり、受託者に対して継続的な報酬の支払いが必要ありません。後見制度を利用する場合、成年後見人や任意後見監督人への報酬が毎月発生し続けますが、家族信託ではそのようなコストを削減できるため、経済的な負担が軽減されます。
家族信託のデメリット
本人の意思能力があるうちに契約が必要
家族信託を利用するためには、本人が判断能力を有している間に信託契約を結ぶ必要があります。認知症などで意思能力が低下した後では契約を結ぶことができません。そのため、家族信託を検討している場合は早めの準備が必要です。
身上監護の権限が認められていない
家族信託は財産管理に特化した制度であるため、受託者には身上監護の権限がありません。身上監護とは、本人の生活支援や医療・介護施設への入所手続きなどを行う権限です。この権限が必要な場合は、家族信託だけでなく、任意後見制度の活用を検討する必要があります。
受託者による権限乱用のリスク
家族信託では、受託者が財産管理を行う際に家庭裁判所などの監督がないため、受託者が権限を乱用して財産を不正に扱うリスクがあります。このリスクを軽減するためには、信託契約を設定する際に、受託者の権限に制限を設けたり、信託監督人を設置して定期的に財産状況を報告するなどの監視機能を導入することが有効です。
家族信託の活用を検討する際のポイント
家族信託の利点を活かすためには、事前に契約を結び、信託監督人などの監視体制を整えることが重要です。また、家族信託と併せて、必要に応じて任意後見制度の活用を検討することで、財産管理と生活支援の両面をカバーすることができます。
成年後見・任意後見のメリット・デメリット|家族信託との比較で見えてくる選択のポイント
成年後見制度や任意後見制度は、本人の判断能力が低下した際に財産管理や生活支援を行うための制度ですが、家族信託と異なる特徴があります。それぞれのメリットとデメリットを理解することで、どの制度が最適か判断できるようにしましょう。
成年後見・任意後見のメリット
家族や親族が遠方でも利用可能
成年後見制度や任意後見制度の大きなメリットは、本人の家族や親族が遠方に住んでいても利用できる点です。たとえば、本人の近くに家族がいない場合でも、信頼できる友人やご近所の方、もしくは司法書士や弁護士などの専門家が後見人として選任され、適切な支援が受けられます。これにより、生活支援や法的トラブルの解決も期待できます。
身上監護による生活支援が充実
成年後見制度や任意後見制度は、財産管理だけでなく「身上監護」として本人の日常生活の支援も行います。これには、介護や医療手続き、施設への入所手続きなどが含まれ、生活環境を整えるためのサポートが可能です。また、成年後見人は不適切な契約を取消す権利(取消権)も持っているため、本人が判断能力を失った後でも安心して生活を続けられます。
認知症発症後でも利用可能
成年後見制度の大きなメリットは、本人がすでに認知症などで判断能力を失っている場合でも、家庭裁判所の審判により後見制度を利用できる点です。任意後見や家族信託は、本人の判断能力があるうちに契約を結ぶ必要がありますが、成年後見制度は発症後でも手続きを進められるため、本人の財産と生活を保護する強力な手段です。
成年後見・任意後見のデメリット
後見の終了が難しい
成年後見制度は一度開始されると、本人が亡くなるまで続きます。正当な理由がある場合に限り後見人を解任できるケースはありますが、後見制度自体を途中で終了することはできません。同様に、任意後見制度でも後見開始後は、家庭裁判所の許可が必要であり、簡単に解任することはできません。
専門家への報酬が発生する
成年後見制度や任意後見制度では、司法書士や弁護士などの専門家が後見人や監督人として選任される場合、毎月報酬を支払う必要があります。報酬は後見期間中ずっと発生し、月額2~6万円が目安となります。報酬の負担が長期間続くため、費用面での負担が大きくなることがデメリットと言えます。
資産運用が制限される
成年後見制度や任意後見制度は、本人の財産を保護することが目的であるため、株式投資や不動産運用など、リスクを伴う行為は原則として認められていません。資産を安全に保つことが最優先されるため、財産の増加を目的とした積極的な運用はできません。これにより、資産の成長が期待できない点は、資産運用を希望する家族にとって大きなデメリットとなります。
成年後見・任意後見を利用する際の検討ポイント
成年後見制度や任意後見制度を選ぶ際は、後見開始後の費用負担や、資産運用の制限についてしっかり理解することが重要です。また、本人が認知症を発症した後でも利用できる成年後見制度は、生活支援を充実させたい場合に非常に有効です。ただし、長期的な視点で見たときの報酬負担など、家族全体の状況に応じて慎重に制度選択を行いましょう。
家族信託を利用すべきケース|柔軟な財産管理・相続対策に最適
家族信託は、財産管理や相続対策において非常に柔軟な選択肢となります。ここでは、家族信託を利用すべき具体的なケースについて詳しく解説します。
柔軟な財産管理をしたい場合
家族信託を利用することで、成年後見制度では難しい積極的な資産運用が可能になります。例えば、株式投資や不動産活用、資産の組み換えなど、財産を有効に活用することができます。
さらに、成年後見制度のように家庭裁判所での手続きを必要とせず、迅速かつ低コストで財産管理が行えるのも家族信託の強みです。認知症発症後に面倒な手続きや費用が発生しないため、柔軟で融通の利く財産管理を希望する場合には、家族信託が最適です。
死後の相続を事前に指定したい場合
家族信託の遺言的機能を活用すれば、財産の承継先を事前に指定することができます。遺言と違い、家族信託では数次に渡る相続先を設定できるため、たとえば「自分が死亡したら妻に、妻が死亡したら息子に」といった形で、複数の承継者を指定することが可能です。
生前の財産管理と、死後の相続対策を一括して行いたい場合には、家族信託が大変有効なツールです。特に複雑な相続を予定している場合には、家族信託の導入をおすすめします。
ランニングコストを安く抑えたい場合
成年後見制度や任意後見制度を利用する場合、成年後見人や監督人に対して報酬の支払いが必要となります。これらの報酬は、被後見人が亡くなるまで毎月発生するため、長期的なコスト負担が避けられません。
一方で、家族信託では継続的な報酬の支払いは不要です。初期費用のみで、その後のランニングコストを抑えられるため、長期にわたって経済的な負担を軽減したい方には、家族信託が最適な選択肢となります。
裁判所や第三者の関与を避けたい場合
成年後見制度や任意後見制度では、家庭裁判所の関与が必須となり、後見人や監督人が選任されます。場合によっては、本人と縁の薄い弁護士や司法書士が選ばれ、財産管理を行うケースもあります。
これに対して家族信託では、家庭裁判所の関与を避け、信頼できる家族や親族だけで財産管理を行うことができます。第三者の介入を最小限に抑えたい、家族だけで財産を管理したいという場合には、家族信託が非常に適した制度です。
家族信託は、財産管理や相続対策をより柔軟に、そして低コストで行いたい方にとって理想的な手段です。認知症リスクへの備えや、複雑な相続の対応、裁判所の関与を避けたい場合など、さまざまなシーンで家族信託が役立ちます。
成年後見・任意後見を利用すべきケース
成年後見制度や任意後見制度を利用するべき具体的な状況について解説します。これらの制度は、判断能力が低下した際に財産管理や日常生活のサポートを提供する重要な手段です。ここでは、どのような場合に成年後見制度や任意後見制度が適しているかを見ていきましょう。
認知症や障害が理由で生涯にわたるサポートが必要な場合
成年後見制度は、認知症や知的障害などにより判断能力が不十分な方を保護するために設けられた制度です。判断能力が失われたことで、本人が誤って不利な契約を結んでしまった場合、その契約を取り消すことができるほか、日常生活に必要な手続きや契約を後見人が代行します。
すでに認知症を発症している場合や、知的障害によって自分で契約行為が行えない方には、成年後見制度を活用することで、後見人が財産管理や生活支援を行い、本人を手厚く保護することが可能です。生涯にわたって安心した生活を送りたい場合には、成年後見制度が適した選択肢です。
頼れる身内がいない場合
家族信託では、受託者となる家族や親族が財産を管理します。しかし、信頼できる家族や親族がいない場合、財産管理をプロに依頼する必要があります。成年後見制度や任意後見制度では、弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人や任意後見人として選任されるため、安心して財産を預けることができます。
もし、家族や親族に財産管理を任せることが難しい場合には、成年後見制度や任意後見制度を利用し、専門家に管理を依頼するのが安心でしょう。これにより、財産の適切な運用と保護が期待できます。
財産管理だけでなく生活全般のサポートが必要な場合
身上監護を含む生活全般の支援が必要な場合は、成年後見制度や任意後見制度が適しています。家族信託は財産管理に特化しており、身上監護権は付与されていません。そのため、本人が子供や家族と同居していない、または近くに親族がいない場合、日常生活の支援や介護の手続きなどを後見人に依頼することができます。
生活支援や介護に加え、法律行為や医療契約などを行うためには、後見制度を利用して、後見人に身上監護を依頼するのが望ましい選択です。
成年後見制度や任意後見制度は、本人の判断能力が低下した場合でも、財産管理や生活支援を適切に行うために設計された制度です。特に信頼できる家族がいない場合や、生活全般のサポートが必要な場合には、これらの制度を積極的に活用することをおすすめします。
家族信託、成年後見、任意後見の選択を事例で解説|最適な制度を見極める5つの選択基準
家族信託、成年後見、任意後見は、財産管理や本人保護に役立つ制度です。ここでは、実際の家族構成を基に、どの制度が最適かを事例を通して検討していきます。
事例:高齢の母親の財産管理
事例の背景
・母親が高齢で、最近物忘れが増えてきたことから、将来の認知症リスクが心配。
・父親は他界しており、長男と長女はそれぞれ独立して生活している。
・財産管理は長男が担当しようと考えている。
このようなケースで、認知症対策として「家族信託」「任意後見」「成年後見」のどれが最適かを検討します。
制度選択の5つの基準
この事例を基に、どの制度を選択するか判断するための5つの基準を以下に解説します。
【選択基準①】判断能力があるか?
家族信託や任意後見は、将来の認知症リスクに備えるための制度です。判断能力がすでに失われている場合、これらの制度は利用できず、成年後見制度が唯一の選択肢になります。
今回の事例では、母親はまだ判断能力があるため、事前の対策として「家族信託」や「任意後見」を選ぶことが可能です。
【選択基準②】財産をどう守りたいか?
次に、母親の財産管理の目的を考えます。不動産を積極的に活用したい、たとえば、不動産の買い替えや新しい賃貸ビルの建築などを計画している場合、家族信託が適しています。なぜなら、成年後見や任意後見では、本人の財産を減らすリスクがある行為は認められないからです。
一方、施設入所のために自宅を売却する場合、状況次第では「成年後見」「任意後見」でも可能ですが、家庭裁判所の許可が必要です。家族信託であれば、より柔軟な対応ができ、適切なタイミングでの売却が可能となります。
【選択基準③】身上監護が必要か?
身上監護とは、介護や医療手続きを含む生活全般のサポートを指します。母親の身近に家族がいてサポートできる場合は「家族信託」で問題ありませんが、身上監護を第三者に任せる必要がある場合は、成年後見や任意後見が適しています。これにより、後見人が生活支援を行い、必要な手続きを代行します。
【選択基準④】第三者の関与をどこまで許容できるか?
家族だけで財産を管理したい場合、家族信託が適しています。成年後見制度では、家庭裁判所が後見人を選任し、後見人による財産管理が行われます。必ずしも家族が選ばれるわけではなく、弁護士や司法書士が関与する場合もあります。
一方、任意後見では、任意後見人として家族を指名できるものの、任意後見監督人として専門家が監視し、家庭裁判所に報告を行う必要があります。第三者の関与を避けたい場合は、家族信託を選ぶのが良いでしょう。
【選択基準⑤】詐欺や悪徳商法への対策が必要か?
成年後見制度では、後見人が契約の取り消しを行えるため、詐欺や悪徳商法から保護することが可能です。対して、家族信託や任意後見には契約取り消し権がないため、このようなリスクに対応するためには、成年後見制度を選択する方が安心です。
家族信託と任意後見の併用も可能
家族信託と任意後見は併用が可能です。どちらも適している場合、柔軟な財産管理を行う家族信託と、生活支援を行う任意後見を組み合わせることで、最適なサポート体制を構築できます。
コスト面を比較してみると、初期費用は「任意後見」が安価ですが、任意後見監督人への報酬が継続的に発生します。一方、家族信託はランニングコストがかからないため、家族の将来設計に基づき、どちらを選ぶか検討しましょう。
まとめ|家族信託・成年後見・任意後見の違いと最適な選択方法
今回の記事では、家族信託と成年後見、任意後見という3つの財産管理制度について詳しくご紹介しました。それぞれの制度は、家族構成や資産状況に応じて選択すべきケースが異なります。以下、重要なポイントをまとめます。
・家族信託、成年後見、任意後見は全て財産管理に適した制度ですが、選ぶべきケースは異なります。
・積極的な財産管理や相続対策を重視するなら、家族信託がおすすめです。
・身上監護が必要な場合は、任意後見や成年後見が適しています。
・家庭裁判所の介入を避けて、柔軟な財産管理を行いたい場合は、家族信託が最適です。
・家族信託ではカバーできない身上監護を補完するため、家族信託と任意後見の併用も可能です。
どの制度が自分の家族にとって最適かは、利用目的や第三者の関与、費用などを考慮しながら決める必要があります。家族信託、成年後見、任意後見のどれを選ぶべきか、迷った際には専門家との相談が非常に有効です。当事務所では、豊富な経験を持つ専門家が、個別の状況に応じたアドバイスを提供いたします。ご家族の将来設計にお悩みの方は、ぜひ専門家へのご相談をお勧めします。最適な制度を選択し、大切な財産を守るための第一歩を踏み出しましょう。
(東京税理士会玉川支部所属(登録番号:139151号)
FAQ
よくあるご質問
- 電話・メールでの税務相談は可能ですか?
- 当事務所の方針としまして、ご相談の際には、直接お会いしてお話させていただいております。ただし、場合によっては、お電話にて相談を承る場合もあります。詳しくは、一度お電話またはお問い合わせフォームからお問い合わせください。
- 相談に行く際、事前に準備しておくべきことはありますか
- 初回面談はお客様のご相談事項をお伺いすることが中心です。ご相談事項に関連する資料をご準備ください。
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