生命保険
法人保険のメリットとデメリット|リスク管理と節税を徹底解説
法人保険は、企業が直面する多様なリスクに備えるための有力なツールです。2019年の損金算入ルール改定以降、目先の節税効果は減少しましたが、リスク管理や退職金準備、事業承継・相続対策としての価値は依然として高いです。
本記事では、法人保険のメリット・デメリットをわかりやすく解説し、経営に役立つ活用法を紹介します。
目次
法人保険の基本と種類|法人経営のリスク管理に必須の保険とは?
法人保険は、法人が契約する保険のことです。経営リスクをカバーし、事業運営を円滑に行うために重要な役割を果たします。まずは法人保険の基本や主な種類について詳しく解説します。
法人保険の主な種類
法人保険は、以下の3つの大きなカテゴリーに分けられます。
1.生命保険
・経営者や従業員の死亡に備える保険です。貯蓄性のある商品も多く、退職金準備や福利厚生としても活用されます。
例: 定期保険、養老保険、収入保障保険
2.損害保険
・企業活動中に発生する事故や災害による損害に備える保険です。建物や設備へのダメージ、第三者への賠償リスクに対応します。
例: 火災保険、動産総合保険、施設賠償責任保険、PL保険、IT賠償責任保険
3.第三分野の保険
・経営者や従業員の病気やケガに備える保険で、生命保険と損害保険の中間的な位置づけです。保険会社の種類
を問わず、幅広く取り扱われています。
例: 医療保険、がん保険、介護保険、所得補償保険
掛け捨てタイプと積み立てタイプの違い
法人保険には、「掛け捨てタイプ」と「積み立てタイプ」があります。それぞれの違いについて見ていきましょう。
タイプ | 貯蓄性 | 解約返戻金 |
掛け捨てタイプ | なし | なし |
積み立てタイプ | あり | あり |
・掛け捨てタイプ:
保険料は掛け捨てで、解約しても返戻金はありません。
・積み立てタイプ:
保険期間中に貯蓄性があり、解約時には解約返戻金が支払われます。満期には満期保険金が受け取れることもあります。
法人保険は、企業が抱えるリスクに応じて柔軟に選べる重要なツールです。適切な保険選びで、経営を強力にサポートしましょう。
法人保険の節税効果は限定的|注意すべきポイントとは?
法人保険は、生命保険・損害保険・第三分野の保険の保険料を損金に算入することで、法人税の節税効果が期待できると言われています。しかし、2019年のルール改正に伴い実際の節税効果は限定的であるため、注意が必要です。
法人保険の節税効果の仕組み
法人保険の保険料は、企業の経費として損金に算入できるため、法人税の負担を一時的に軽減することが可能です。しかし、保険金や解約返戻金を受け取る際には、法人税の課税対象となる点に注意しなければなりません。
・保険金や解約返戻金を受け取る際の課税
受け取った保険金や解約返戻金は、保険料積立金や配当積立金を除いた全額を「雑収入」として益金に計上す
る必要があります。これにより、結果的に課税対象となり、税負担が増加する可能性があります。
節税効果が少なくなる理由
法人保険を活用した節税効果が少ない理由は、受け取った保険金や解約返戻金が全額課税対象となることです。保険料の損金算入によって一時的な節税は可能ですが、将来的に大きな保険金や解約返戻金を受け取る際に多額の税金が発生し、結果的には節税効果が薄れてしまいます。
なぜ「法人保険で節税できる」と言われてきたのか?
以前は、法人保険の損金算入による短期的な節税メリットが強調されていました。
特に、解約返戻金が多額に設定されている保険商品では、保険料支払い期間中に税金を抑え、将来的に利益を分散できると考えられていたからです。しかし、最終的に受け取る金額に対する課税が避けられないため、全体としての節税効果は少なくなりがちです。
法人保険で節税が可能とされていた仕組み|過去の制度を振り返る
かつて、法人保険は節税対策として有効な手段とされていました。その背景には、以下の2つのポイントが大きな理由となっていました。
2019年以前の損金算入ルール
2019年以前は、貯蓄性がある法人保険において、保険料の全額、もしくは一部(2分の1や3分の1)を損金に算入することが可能でした。特に、貯蓄性のある保険商品は経営者の退職金準備や企業の資産形成に活用されることが多く、税負担を軽減する手段として非常に重宝されていました。
高い解約返戻率の保険商品
一部の法人保険商品は、解約返戻金が保険料の8割から10割以上にもなる高返戻率を持っていました。この高い返戻率と損金算入が組み合わさることで、課税の繰り延べ効果(課税されるタイミングを先送りする効果)を狙った節税策が可能でした。これにより、企業は短期的に法人税の支払いを抑えながら、将来の資金を効率よく確保することができました。
2019年以降のルール変更
しかしながらこの保険商品を利用した過剰な節税対策が見受けられるようになり、金融庁は2019年に法人保険の損金算入ルールを見直しました。この改定により、特に貯蓄性の高い法人保険については、保険料の損金算入が制限されることになり、以前のような大幅な節税効果は期待できなくなっています。
2019年の法人保険ルール変更|損金算入の新ルールを解説
2019年7月8日以降、新たに加入した定期保険商品、および同年10月8日以降に加入した第三分野の保険商品に対して、国税庁は新しい損金算入ルールを適用しました。このルール変更により、従来の節税効果が大きく変わることとなりました。
新ルールの適用範囲と仕組み
新ルールでは、最高解約返戻率を基準に、損金算入できる割合が決定されます。解約返戻率が高い保険商品ほど、契約直後に損金算入できる割合が少なくなり、契約期間の経過に伴ってその割合が増加する仕組みです。
具体的には以下のように定められています。
最高解約返戻率 | 保険期間開始直後 | 保険期間の40%経過後 | 保険期間の75%経過後 |
50%以下 | 全額損金算入 | – | – |
50%超〜70%以下 | 損金算入:60% | 全額損金算入 | 全額損金算入+資産計上分を取り崩し損金算入 |
70%超〜85%以下 | 損金算入:40% | 全額損金算入 | 全額損金算入+資産計上分を取り崩し損金算入 |
85%超 | 損金算入:10% | 損金算入:30% | 全額損金算入+資産計上分を取り崩し損金算入 |
保険の契約直後に損金として計上できる割合は、解約返戻率が高くなるほど少なく設定されています。一方、契約期間の経過に伴い、損金算入できる割合は増加していきますが、短期的な節税効果は以前のルールに比べて大幅に低くなりました。
目先の節税効果が減少
従来のルールでは、契約直後から高い損金算入が認められ、目先の法人税負担を軽減できる保険商品が多く存在しました。しかし、2019年のルール変更により、高い解約返戻率の商品ほど、初期の損金算入が制限されることとなり、短期的な節税効果を狙うことが難しくなりました。
今回の改定により、法人保険を活用した短期的な節税対策は厳しくなりましたが、長期的な資産形成やリスクマネジメントに焦点を当てた保険活用が求められています。法人保険を検討する際には、新しいルールに基づいた戦略を立てることが重要です。
法人保険の節税以外のメリットとデメリット|経営リスクに備える本来の目的とは?
2019年の損金算入ルール改定以降、税の繰り延べ効果を狙える法人保険は一部の商品を除き、ほとんどなくなってしまいました。しかし、法人保険には本来の目的であるリスク管理や資金準備など、節税以外にも多くのメリットがあります。ここでは、法人保険の節税以外のメリットとデメリットについて詳しく解説します。
法人保険の3つのメリット|経営リスク対策と資産形成に対応
法人保険のメリットは以下3点です。
・経営者の万一に備えた退職金積み立て
・相続・事業承継対策
・従業員の福利厚生の充実
法人保険に加入することで、企業は万一の事態に備えつつ、さまざまな形で保険金や解約返戻金を活用できます。法人保険の主なメリットを3つ紹介し、どのように企業経営に役立つかを解説します。
経営者の万一に備えた退職金積み立て
経営者が突然亡くなった場合、取引先への支払い、従業員の給与、借入金の返済が滞り、会社の信用が低下するリスクがあります。法人が生命保険に加入していれば、保険金を利用してこれらのリスクを軽減し、企業の経営を継続させることが可能です。
また、保険金や解約返戻金を経営者の退職金に活用することも大きなメリットです。役員の退職金は高額になりがちですが、保険を使うことで負担を軽減し、退職金として支払うことで節税効果も期待できます。
相続・事業承継対策
経営者が亡くなった際、後継者が自社株式を相続すると相続税が発生します。法人が加入する生命保険の保険金を相続税や事業承継資金として活用することで、後継者の負担を軽減できます。例えば標準保障額(借入金+6か月分の運転資金+遺族への弔慰金)をカバーできるような保険に加入しておけば、経営者の不測の事態にも十分に備えることができます。事業承継のスムーズな実行は、企業の安定的な経営を支える重要な要素です。
また経営者の死亡時に支払われる死亡保険金は、相続税の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)を活用でき、納税資金や遺留分対策として有効です。
従業員の福利厚生の充実
法人保険は、従業員の福利厚生を充実させる手段としても有効です。死亡退職金や入院費用をカバーするプランを付帯した保険商品を活用すれば、従業員の安心感が増し、企業への信頼も向上します。
福利厚生を充実させることで、従業員のモチベーションが向上し、優秀な人材の確保にもつながります。損金算入の要件を満たせば、節税効果も期待できますが、同族経営や役員と従業員の保険金額に差がある場合は、損金扱いが認められないことがあるため、税理士に相談することが推奨されます。
法人保険の3つのデメリット
法人保険のデメリットは以下3点です。
・キャッシュ・フローが悪化する可能性がある
・解約返戻金が払い込み保険料の総額を下回る可能性
・国税庁や金融庁による規制の強化の可能性
法人保険には多くのメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。企業の資金繰りに影響を与える可能性があるため、加入を検討する際には慎重に判断する必要があります。本記事では、法人保険に加入する際の主なデメリットについて解説します。
キャッシュ・フローが悪化する可能性がある
法人保険に加入すると、毎月の保険料支払いが発生します。特に、保険料が高額な場合、キャッシュ・フローが悪化し、事業資金に余裕がなくなる可能性があります。
一部の保険には「契約者貸付制度」があり、解約返戻金の約7割程度を借り入れることができます。この制度を利用することで、保険料を支払いながらも必要な資金をスムーズに調達できますが、借り入れを行う際には慎重に計画を立てることが重要です。
解約返戻金が払い込み保険料の総額を下回る可能性
解約のタイミングによっては、解約返戻金が払い込んだ保険料の総額を下回ることがあります。特に、契約から数年以内の解約や、解約返戻率がピークを過ぎた後に解約した場合、想定よりも少ない返戻金しか受け取れないリスクがあるため、解約のタイミングには注意が必要です。
国税庁や金融庁による規制の強化の可能性
法人保険に関連する税制は、2019年の税制改正で保険料の損金計上ルールが大きく変更されました。今後も規制が強化される可能性があり、節税効果がさらに薄れるリスクがあります。法人保険を選ぶ際には、節税だけに頼らず、自社の資金計画やリスク管理を総合的に考慮して判断することが重要です。加入の際は、税理士に相談することで、最新の税制に基づいた適切なアドバイスを受けることができます。
生命保険以外の法人保険|多様なリスクに備える選択肢とは?
法人が直面するリスクは、経営者や従業員の生命や健康に関するものだけではありません。事業運営を妨げる災害や事故、取引先の倒産など、さまざまなリスクにも備える必要があります。本記事では、生命保険以外に法人が活用できる保険の選択肢について紹介します。
損害保険
損害保険は、法人が日常の事業活動において直面するリスクに備えるための保険です。自然災害や事故、盗難など、さまざまな損害を補償します。具体的には次のような保険が含まれます。
・火災保険: 火災や自然災害による建物や設備への損害を補償します。
・労災保険: 従業員が勤務中にケガや病気になった場合の損害を補償します。
・自動車保険: 事業用車両の事故や盗難に対する補償が含まれます。
損害保険は、保険会社やプランによって補償内容や保険料が異なります。自社の事業内容やリスクに合わせたプランを慎重に比較検討することが重要です。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、取引先の倒産によって自社が経営難に陥るリスクに備えるための制度です。中小企業を対象にしたこの共済制度は、無担保・無保証人で掛金の最大10倍(上限8,000万円)まで借り入れが可能で、連鎖倒産を防ぐ手段として活用されます。
さらに、掛金は損金算入ができるため節税効果もあり、掛金は月額5,000円~20万円の範囲で自由に設定できます。事業環境に応じて掛金を増額・減額できる柔軟性も、この制度のメリットの一つです。
法人保険は税理士に相談を!経営のリスク管理と税務対応をプロに任せよう
2019年の損金算入ルール改定以降、解約返戻率の高い定期保険での節税効果は大幅に制限されました。しかしながら、法人保険のメリットは節税効果だけにとどまらず、企業活動のリスクに備えることや、事業承継・相続対策、退職金準備など、幅広い活用が可能です。一方で、保険料の支払いによるキャッシュ・フローの悪化や、解約時の返戻金が払い込み保険料を下回るリスクもあるため、加入前に慎重な検討が必要です。
法人保険は、会社の資金繰りや法人税に大きく影響を与えるため保険に精通した税理士に相談することをおすすめします。齋藤久誠公認会計士・事務所では、お客様に最適の法人保険を幅広いラインナップから紹介することが可能です。法人保険をミスを防ぎ、適切な税務対策を講じるためにも当事務所へのご相談ください。
(東京税理士会玉川支部所属(登録番号:139151号)
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よくあるご質問
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