財産管理
財産管理委任契約とは|類似する公的制度との違いやメリット・デメリットを徹底解説
財産管理委任契約は、信頼できる他者に財産管理や療養看護を任せるための契約です。この契約は、任意後見制度や死後事務委任契約と一部共通点があるものの、効力発生のタイミングや監督人の有無など、重要な違いがあります。財産管理委任契約の特性やメリット・デメリットをしっかりと理解し、賢く活用することで、判断能力が低下する前後のリスクを最小限に抑えることができます。この記事では、任意後見制度との併用のメリットや、安全に活用するためのポイントについても詳しく解説します。
目次
1.財産管理委任契約とは|安心して財産管理を任せる契約
財産管理委任契約とは、財産の管理や療養看護に関する事務手続きを信頼できる他者に任せる契約です。この契約は民法に基づく「委任契約」として取り扱われ、時には「任意代理契約」や「事務委任契約」と呼ばれることもあります。
1-1.判断能力が重要:認知症では契約不可
認知症などで判断能力が低下した人は、この契約を結ぶことができません。財産管理委任契約は、判断能力に問題がない方が対象となります。
以下のような場合に、この契約の利用が検討されます。
・病気や怪我による身体の不自由で外出が難しくなった
・高齢による身体能力の衰えで財産管理が困難になった
このように、財産管理委任契約は身体的な制約があるものの、判断力はしっかりしている方が、自分の財産管理を安心して他者に任せるための手段です。
1-2.委任者と受任者:信頼できる人を選ぶ
財産管理委任契約を結ぶ際、委任者(契約をする人)も受任者(財産管理を任される人)も特別な資格は必要ありません。信頼できる家族や友人、知人を受任者に選ぶことが可能です。また、司法書士や行政書士などの専門家を選ぶこともできます。さらに、受任者は一人に限らず、複数の人と契約を結ぶことができるため、必要に応じて柔軟に対応できます。
2.財産管理委任契約で委任できる内容|財産管理と療養看護の事務を任せられる
財産管理委任契約では、主に「財産管理」と「療養看護」に関する事務を他者に任せることができます。以下に、それぞれの具体的な例を紹介します。
2-1.財産管理の具体例
・銀行での預金の引き出しや振込手続きの代行
・賃貸不動産の家賃収入の管理
・家賃や水道光熱費などの支払いの代行
・納税手続きの代理
2-2.療養看護の具体例
・要介護認定の申請手続き
・病院や介護施設への入所手続きの代理
・介護サービスの選定、契約、そして費用の支払い
これらは、財産管理委任契約で委任できる行為の一例です。契約内容は、法律の範囲内であれば柔軟に設定することが可能です。
2-3.委任できない行為
ただし、医療行為に対する同意は本人に限られており、財産管理委任契約で委任することはできません。医療行為に関する決定権は原則として本人が持つため、この点には注意が必要です。
3.財産管理委任契約とその他サービス・制度との違い
財産管理委任契約と、類似するサービスや制度である「任意後見制度」「日常生活自立支援事業」「家族信託」「死後事務委任契約」との違いについて解説します。
3-1.任意後見制度(任意後見契約)との違い
任意後見制度は、認知症などにより判断能力が低下した場合に備えて、任意後見人に財産管理や療養看護を委任する制度です。契約は公証役場で公正証書として締結され、判断能力が低下したときに初めて効力が発生します。
一方、財産管理委任契約は、判断能力が低下する前から財産管理を委任できる点が大きな違いです。任意後見制度は、判断能力低下後にのみ有効であり、前段階の財産管理には対応できません。両制度は併用が可能で、効力発生のタイミングを考慮して利用されることもあります。
3-2.日常生活自立支援事業との違い
日常生活自立支援事業は、認知症や知的障害、精神障害を持つ方の自立を支援するために提供される福祉サービスです。この事業では、主に日常生活に必要な金銭管理や福祉サービスの利用支援を行います。
しかし、財産管理委任契約は、日常的な金銭管理にとどまらず、不動産管理などより広範な財産管理を委任することが可能です。日常生活自立支援事業が日常生活費の管理に限られるのに対し、財産管理委任契約はより包括的な財産管理ができる点が異なります。
3-3.家族信託との違い
家族信託は、財産の管理や処分を家族や信頼できる知人に委ねる契約です。信託契約を結ぶと、財産の名義が委託者から受託者に移るため、委託者の判断能力が低下しても財産の管理や処分を続けることができます。
一方、財産管理委任契約は本人の名義で財産を管理するため、判断能力が低下すると財産処分ができなくなる点が大きな違いです。家族信託は、受託者により多くの権限を与えることが可能で、不動産売買や口座管理も柔軟に対応できます。ただし、信託の場合、受託者に家族や友人を選ぶ必要があり、司法書士などの専門家を受託者にすることはできません。
3-4.死後事務委任契約との違い
死後事務委任契約は、死亡後の事務手続きや葬儀、病院代の支払い、行政手続きなどを第三者に委任する契約です。
一方、財産管理委任契約は生前の財産管理を目的とする契約で、死後に関する手続きを含みません。死後の事務手続きについても備えたい場合は、死後事務委任契約を別途締結する必要があります。
4.財産管理委任契約と任意後見契約を併用|「移行型任意後見契約」のメリットと理由を解説
「移行型任意後見契約」は、任意後見契約と財産管理委任契約を同時に締結する契約形態です。判断能力が低下する前は財産管理委任契約によって財産管理を行い、判断能力が低下した際には任意後見契約に移行します。このため、「移行型」と呼ばれています。
4-1.移行型任意後見契約のメリット
この契約を活用することで、判断能力がしっかりしている時期から判断能力が低下した後まで、一貫して信頼できる第三者に財産管理や療養看護を任せることが可能です。財産管理委任契約では、判断能力が低下する前から財産管理を始められ、任意後見契約が発動することで、判断能力が低下した後もスムーズに管理が継続されます。
4-2.任意後見契約と併用される理由
任意後見契約の締結時には、財産管理委任契約を併用することが一般的です。実際、全国の公証役場で新たに作成される任意後見契約(年間約1,900件)のうち、約4分の3が移行型任意後見契約として締結されています。この形態は、判断能力の変化に柔軟に対応できるため、多くの方に選ばれています。
参考:任意後見契約の類型|法務省民事局
5.財産管理委任契約のメリット
財産管理委任契約の主なメリットは以下3点です。
・委任する内容を柔軟に決められる
・判断能力のあるうちから利用できる
・委任状を用意する手間が省ける
5-1.委任する内容を柔軟に決められる
財産管理委任契約の最大のメリットは、その自由度の高さです。契約の内容や開始時期などは、委任者と受任者との合意に基づいて柔軟に決定できます。財産管理だけでなく、日常生活のサポートまで幅広く対応できるため、個々のニーズに応じた契約が可能です。また、契約の締結には公的機関の関与が不要なため、手軽に利用できる点も大きな魅力です。契約期間も自由に設定でき、「病気や怪我が治るまで」といった限定的な期間での利用も可能です。
5-2.判断能力があるうちから利用できる
任意後見制度と異なり、財産管理委任契約は、本人の判断能力が健在な状態であればすぐに効力を発揮します。たとえば、病気や怪我で外出が困難な場合でも、受任者に銀行での預金引き出しや光熱費の支払いを任せることができます。判断能力が低下する前に、財産管理を任せたいと考えている方にとって、非常に便利な制度です。
5-3.何度も委任状を用意する手間が省ける
通常、誰かが自分に代わって銀行で手続きを行う際には、毎回「委任状」を用意する必要があります。頻繁に手続きを行う場合、何度も委任状を準備するのは手間がかかります。しかし、財産管理委任契約書があれば、都度委任状を提出する必要がなくなり、手続きがスムーズに進められます。
6.財産管理委任契約のデメリット
財産管理委任契約の主なデメリットは以下3点です。
・取消権がない
・監督期間がない
・社会的信用がない
6-1.取消権がないため、契約の保護に限界がある
財産管理委任契約の受任者には、法律行為の取消権がありません。たとえば、委任者本人が詐欺に遭い、高額な商品を契約してしまった場合、本人は詐欺を理由に契約を取り消すことができますが、受任者はその権限を持たないため、直接契約を取り消すことができません。
このため、受任者は委任者に対して説得を試みるしかなく、詐欺の相手を信じている場合や、本人が詐欺に気づかない場合には対処が難しくなります。特に、判断能力が低下した後は、詐欺のリスクが高まるため、事前にこの点を考慮し、対策を講じておくことが重要です。
6-2. 監督機関がないため不正のリスクが高まる
財産管理委任契約では、受任者を監督する法的な機関が存在しません。一方、任意後見制度では家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、後見人による不正行為を防止する役割を担います。しかし、財産管理委任契約にはこのような監督機関がなく、受任者が不正行為を行うリスクが高まる点がデメリットです。委任者自身が受任者を監督する必要がありますが、頻繁にチェックを行わない限り、不正を発見するのは難しい場合もあります。
6-3.社会的信用が低い
財産管理委任契約は、公的な手続きを経ずに当事者間で締結できる点がメリットである一方、社会的な信用度が低いというデメリットもあります。特に、金融機関によっては財産管理委任契約に基づく代理手続きを認めないケースがあり、受任者が銀行で預金を引き出したり支払いを行うことが難しい場合があります。
この問題を解決するためには、契約書を公正証書として作成するなど、信用度を高めるための工夫が必要です。
7.財産管理委任契約の手続き方法
財産管理委任契約を進める際の手続きの流れは以下の通りです。
7-1-1.金融機関に財産管理委任契約の対応可否を確認
まず、利用する金融機関が財産管理委任契約に対応しているかを確認します。金融機関によっては、代理人登録が必要だったり、取引ごとに委任状の提出を求められる場合もあるため、事前に確認しておくことが重要です。
7-1-2.受任者を選定
信頼できる家族や友人、または専門家(司法書士や弁護士など)から受任者を選びます。受任者の選定は、契約の成功において非常に重要なステップです。
7-1-3.委任内容を相談して決定
委任する内容について、委任者と受任者が話し合い、財産管理や日常生活のサポートなど、どの範囲を委任するかを決定します。
7-1-4.財産管理委任契約書を作成
契約書には、契約内容を明確に記載します。専門的な記載内容を含むため、司法書士や弁護士などの専門家に依頼して作成することをおすすめします。個人で作成すると、記載漏れや不備が生じやすいです。
7-1-5.代理届けを金融機関に提出
契約書の作成が完了したら、金融機関に代理届けを提出します。これにより、受任者が委任者の代わりに財産管理を行えるようになります。
7-2.財産管理委任契約書に含めるべき基本的内容
財産管理委任契約書には、以下の項目を記載することが基本です。
・契約の目的
・受任者の義務
・委任する財産の目録
・詳細な委任内容
・委任内容の履行に必要な費用負担者
・受任者の報酬やその金額
・報酬や費用の支払い方法
契約書の内容を明確にしておくことで、後のトラブルを避け、安心して財産管理を任せることができます。
8.財産管理委任契約にかかる費用・報酬について
財産管理委任契約に必要な費用や報酬は、受任者によって異なります。以下に、一般的な費用の目安を紹介します。
8-1. 家族や知人を受任者とする場合の費用
家族や友人を受任者とする場合、基本的には報酬が発生しないケースが多いです。無報酬で契約することも可能で、家族間での契約では費用の負担が少ない点がメリットです。
8-2. 専門家を受任者とする場合の費用
司法書士や弁護士などの専門家を受任者とする場合は、報酬が必要になります。一般的な費用の目安は以下の通りです。
・相談料:1回あたり5,000円程度
・財産管理委任契約書の作成費用:5万円程度
・財産管理の月額報酬:1万~5万円程度
報酬額は司法書士や弁護士によって異なるため、事前に相見積もりをとり、複数の専門家から比較検討することをおすすめします。
8-3. 公正証書にする場合の追加費用
財産管理委任契約書を公正証書として作成する場合、別途手数料が発生します。公正証書にすることで契約の信頼性を高めることができますが、費用として1万~2万円ほどの手数料がかかることを念頭に置いておきましょう。
9.財産管理委任契約で発生しやすいトラブルと対策方法
財産管理を他人に委任することに不安を感じる方も多いかもしれません。ここでは、財産管理委任契約で発生しやすいトラブルとその対策方法について解説します。適切な対策を講じることで、安心して財産管理委任契約を結ぶことができます。
9-1. 任意後見監督人選任の遅延
移行型の任意後見制度を利用している場合、本人の判断能力が低下した時点で、受任者が任意後見監督人の選任申し立てを行う必要があります。しかし、適切なタイミングで申し立てがなされないことがあります。このような事態を防ぐためには、以下の対策が有効です。
・信頼できる受任者の選定:受任者は慎重に選びましょう。信頼できる家族や専門家を選ぶこと
で、適切な手続きが期待できます。
・第三者による確認:財産管理委任契約に、受任者以外の第三者が定期的に本人の判断能力を確認
する条項を盛り込むことも、トラブルの予防策になります。
9-2. 受任者による使い込み・横領
財産管理委任契約では、受任者が委任者の財産を不正に使用するリスクも考えられます。特に、判断能力が低下した場合に後見制度へ移行しなければ、不正のリスクが高まります。これを防ぐためには、次の対策が効果的です。
・公正証書で契約を締結:契約内容を明確にし、ルールを厳密に設定するため、公正証書で契約を
作成することが推奨されます。
・受任者を複数人選ぶ:受任者を複数人にしておくことで、相互に監視し合う体制を整え、不正行
為のリスクを軽減できます。
10. 財産管理委任契約は特性を理解して賢く活用しよう
財産管理委任契約は、任意後見制度や死後事務委任契約と一部共通点があるものの、効力発生のタイミングや監督人の有無など、重要な違いがあります。そのため、この契約を上手に活用するには、事前にその特性をしっかりと理解することが不可欠です。
メリットとデメリットを十分に把握し、任意後見制度との併用を検討することで、判断能力が低下した場合でも安心して財産管理を続けることができます。特に、任意後見制度を併用することで、受任者による不正行為のリスクを減らし、より安全で信頼性の高い管理が可能となります。
しかし、財産管理委任契約を選択する際には、十分な知識や経験がないと難しいと感じることがあるでしょう。制度の選択を誤ると、逆にトラブルを引き起こしてしまう可能性もあります。齋藤久誠公認会計士・税理士事務所では、認知症対策に関する専門家との強力なネットワークを活かし、最適な解決策を提供しています。
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(東京税理士会玉川支部所属(登録番号:139151号)
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