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相続財産清算人(相続財産管理人)とは?|選任条件・手続きの流れ・費用まで徹底解説

 相続財産清算人は、相続人がいない場合や全員が相続放棄をした場合に、被相続人の財産を適切に管理し清算する重要な役割を担います。本記事では、相続財産清算人の役割や選任条件、手続きの流れ、かかる費用について詳しく解説します。さらに、相続放棄や特別縁故者の財産分与、債権回収など、相続に関するさまざまな不安や疑問にも対応できる専門家のサポートについてもご紹介します。相続に関して不安を抱えている方は、この記事を参考にして円滑な相続手続きを進めましょう。

目次

相続財産清算人(相続財産管理人)とは|相続人がいない場合の重要な役割とその必要性

 相続財産清算人、または相続財産管理人とは、相続人がいない場合に、被相続人の財産を管理し清算する重要な役割を担う人のことです。通常、相続が発生すると、相続人が被相続人の財産を管理しますが、相続人がいない、または相続人全員が相続放棄をした場合、その財産を管理する者が不在となり、財産の放置やトラブルが発生する可能性があります。

 たとえば、被相続人が債務を負っている場合、適切な管理者がいなければ返済が滞り、債権者とのトラブルが生じることがあります。また、不動産を所有している場合、その管理が行き届かず、損壊や放置された状態になることもあります。

 こうした問題を防ぐために、相続財産清算人が選任され、被相続人の財産を適切に管理し、清算するのが法律上のプロセスとなります。相続財産清算人は、遺産分割や財産処分の実務を行うだけでなく、債務の処理や資産の保全を行い、トラブルの未然防止に寄与します。

 相続人がいない場合、適切な財産管理が行われないことによる法的リスクを避けるため、相続財産清算人の役割は非常に重要です。

相続財産清算人(相続財産管理人)の選任方法|家庭裁判所での手続きとポイント

 相続財産清算人(または相続財産管理人)は、相続人が不在の場合、家庭裁判所によって選任される重要な役職です。選任の申立ては、利害関係人(被相続人と関わりのある人や特別縁故者、特定遺贈を受けた人など)、もしくは検察官によって行われます。法律に基づき、家庭裁判所はこれらの申立てに基づき、適切な相続財産清算人を指名します。

(相続財産の清算人の選任)

第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。
参考:e-GOV法令検索|民法第九百五十二条(相続財産の清算人の選任)

 家庭裁判所は申立ての内容を精査し、相続財産を適切に管理・清算できる人を選定します。通常、選任されるのは弁護士や司法書士などの法律専門家が多いですが、申立てを行った当事者が候補者を推薦することも認められています。ただし、家庭裁判所の審査において候補者が必ず選任されるわけではなく、審査結果次第では他の人が選ばれることもあります。

 相続財産清算人の選任は、相続財産の管理・清算において非常に重要な役割を果たします。選任の際は、家庭裁判所の判断に委ねられるため、しっかりと準備を行うことが重要です。

相続財産清算人(相続財産管理人)の2つの権限と重要性

 相続財産清算人(または相続財産管理人)は、相続財産を管理・清算するために、特定の権限が与えられています。これらの権限により、相続財産の適切な処理が可能となり、債権者や受遺者への支払いが行われます。相続財産清算人が持つ2つの主要な権限について詳しく見ていきましょう。

保存行為・管理行為の権限

 「保存行為・管理行為」とは、相続財産の維持・管理を行う行為のことです。これには、財産の価値や状態を変えない範囲での修繕や管理が含まれます。この権限に関して、相続財産清算人は家庭裁判所の許可を得ることなく、自身の判断で対応することができます。

具体的な保存行為・管理行為の例としては、以下が挙げられます。

・不動産の相続登記
・建物の修繕工事
・預金の払い戻しや口座の解約
・既存の債務の履行
・賃貸契約の解除

 これらの行為は、財産を現状維持するために重要であり、迅速に対応する必要があります。ただし、不動産や家具の売却などの財産の形状を変更する行為は含まれません。

処分行為の権限

 「処分行為」とは、相続財産の形状や価値を変更する行為のことです。通常、相続財産清算人がこの権限を行使するには、家庭裁判所の許可が必要となります。

具体的な処分行為には、以下のような行為が含まれます。

・不動産や株式の売却
・家具や家電の処分
・墓地の購入や永代供養費の支払い
・訴訟の提起

 これらの行為は相続財産に大きな影響を与えるため、家庭裁判所による厳格な審査が行われます。許可を得ずに処分行為を行った場合、相続財産清算人は法的責任を負う可能性があり、取引相手にも損害を与えるリスクがあるため注意が必要です。

相続財産清算人(相続財産管理人)が選任される3つの条件と注意点

 相続財産清算人(または相続財産管理人)は、特定の条件下で家庭裁判所によって選任されます。この役割は、相続財産の清算や管理を行うため、相続手続きの重要な部分を担います。では、どのような条件で相続財産清算人が選任されるのでしょうか。以下、主な3つの条件について詳しく解説します。

法定相続人がいない場合

 法定相続人がいない場合、相続財産管理人が選任されることになります。法定相続人とは、法律に基づいて相続権を持つ人のことです。例えば、被相続人に配偶者や子、親、兄弟姉妹などがいない場合、相続財産を管理する者が不在となるため、家庭裁判所が相続財産管理人を選任する必要があります。

【法定相続人の優先順位】

第1順位 – 子(子が亡くなっている場合は孫)
第2順位 – 親(親が亡くなっている場合は祖父母)
第3順位 – 兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥姪)

もしこれらの相続人がすべて存在しない場合、相続財産管理人の選任が必要になります。

相続人全員が相続放棄をした場合

 相続人が存在しても、全員が相続放棄をした場合、相続財産清算人が選任されます。相続放棄とは、相続人が相続財産や債務を一切受け取らない選択をすることです。全員が放棄した場合、相続財産を管理する者が不在となるため、家庭裁判所が清算人を選任して債権者への弁済などの処理を進めます。

欠格・廃除による相続人不存在の場合

 相続人がいても、その相続人が欠格または廃除に該当する場合には、相続財産清算人が選任されることがあります。欠格とは、法律に基づき相続権を失う行為を行った場合のことです。たとえば、相続人が被相続人を故意に傷つけたり、詐欺や強迫によって遺言を改変させた場合などが該当します。

 廃除は、被相続人が生前に家庭裁判所に申立てを行い、相続権を失わせることができる制度です。例えば、相続人が被相続人に対して虐待や重大な侮辱行為を行った場合などが廃除の対象となります。

(相続人の欠格事由)
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
参考:e-GOV法令検索|民法第八百九十一条(相続人の欠格事由)

(推定相続人の廃除)
第八百九十二条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
参考:e-GOV法令検索|民法第八百九十二条(推定相続人の廃除)

参考|遺言がある場合の特例

 被相続人に法定相続人がいなくても、遺言が存在し、遺言執行者が選任されている場合は、相続財産清算人の選任は不要です。遺言に従って遺贈が実行されます。また、遺言執行者が選任されていない場合でも、受遺者が家庭裁判所に遺言執行者の選任申立てを行うことができます。

 ただし、遺言に債務の支払いが明記されていない場合や、債権者が相続財産から弁済を求める場合は、相続財産清算人の選任が必要になることがあります。

相続財産清算人と相続財産管理人の違いとは?|2023年民法改正による変更点を解説

2023年4月1日に施行された民法改正により、「相続財産管理人」は「相続財産清算人」と名称が変更されました。この改正は名称の変更だけでなく、公告手続きの合理化(短縮)も行われ、相続手続きがより迅速に進められるようになりました。

相続財産清算人と相続財産管理人の違い

 法改正後も「相続財産管理人」という名称は残っていますが、これは相続財産の清算を目的としない場合に使用される名称です。一方、相続財産の清算を目的とする場合は「相続財産清算人」という名称が用いられます。この違いを正しく理解しておくことが重要です。

改正前の手続きの流れ

旧法では、相続財産管理人の選任後、以下のような手続きが必要でした。

相続財産管理人選任の公告(民法952条2項):2カ月間
相続債権者および受遺者に対する請求申出の公告(民法957条1項):最低2カ月間
相続人捜索の公告(民法958条):最低6カ月間

 これらの公告を順番に行うため、権利関係の確定には最短でも10カ月以上かかっていました。

2023年の改正後の変更点

改正後は、手続きが簡略化され、以下のような変更が行われました。

相続財産管理人選任の公告相続人捜索の公告を同時に行うことが可能に(民法952条2項)。
相続債権者および受遺者への請求申出の公告期間は、他の公告期間の満了に合わせて終了することができるように変更(民法957条1項)

 これにより、権利関係の確定にかかる期間が10カ月以上から6カ月程度に短縮され、手続きがスムーズに進むようになりました。

【事例】相続財産清算人(相続財産管理人)の選任申立てを行うべきケース3選

 相続財産清算人(相続財産管理人)の選任申立ては、どのような場合に行われるのでしょうか。具体的に相続財産清算人の選任を検討すべき3つのケースをご紹介します。

ケース① 特別縁故者として財産分与を受けたい場合

 特別縁故者とは、法定相続人ではないが、被相続人と特別な関係にあった人を指します。たとえば、内縁の妻や被相続人の療養看護をしていた人がこれに該当します。特別縁故者は、被相続人に法定相続人がいない場合に限り、家庭裁判所に財産分与の申立てを行うことができます。

ただし、財産分与の申立てを行うためには、まず相続財産清算人が選任され、財産の管理が行われる必要があります。そのため、特別縁故者として財産分与を希望する場合は、相続財産清算人の選任申立てを速やかに行うことが大切です。

(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の二 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
参考:e-GOV法令検索|民法第九百五十八条の二(特別縁故者に対する相続財産の分与)

ケース② 債権者として債権の回収をしたい場合

 債権者が債権の回収をしたい場合が該当します。被相続人が借金や未払いの債務を抱えている場合、相続人がいればその相続財産から支払いを受けることができますが、相続人がいない場合は債権を回収することができません。この場合、債権者は相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申立てる必要があります。

 相続財産清算人が選任されれば、相続財産から債権の回収が可能となるため、債権者としては迅速に選任手続きを進めることが重要です。

ケース③ 相続放棄をしたが財産管理が必要な場合

 相続放棄をした相続人も財産管理の責任を免れない場合があります。民法第940条に基づき、相続放棄をした人が相続財産を占有している場合は、相続財産清算人が選任されるまで、自己の財産と同等の注意を払って相続財産を管理する必要があります。

清算人が選任されないと、相続財産の管理義務を負い続け、建物の崩壊や他人への損害が発生した場合、損害賠償責任を負う可能性もあります。相続人全員が相続放棄を行った場合は、できるだけ早く相続財産清算人の選任申立てを行い、財産管理の負担を解消することが重要です。

(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
参考:e-GOV法令検索|民法第九百四十条(相続を放棄した者による管理)

相続財産清算人(相続財産管理人)の申立てが却下される4つのケースと注意点

 相続財産清算人(または相続財産管理人)の申立てを行う際には、いくつかの要件を満たしていなければ、家庭裁判所から申立てが却下される可能性があります。ここでは、相続財産清算人の選任申立てが却下される代表的な4つのケースについて詳しく解説します。

相続財産清算人の申立てを行っても、要件を満たしていなければ選任されません。

申立て権限がない場合

 申立て権限がない人が相続財産清算人の選任を申請しても、家庭裁判所はその申立てを却下します。相続財産清算人の申立て権限があるのは、法定の利害関係人または検察官です。利害関係人とは、相続財産清算人の選任がなければ法的な目的が達成できない人を指します。具体的な例として、以下のような人が該当します。

・特別縁故者
・相続債権者
・相続財産を管理している人や不動産の共有者

 例えば、相続債権者が相続財産清算人を申請しないと債権の回収ができない場合、申立て権限があります。適切な権限がない場合、申立ては却下されます。

相続人が存在する場合

 相続財産清算人は、相続人がいない場合に選任されます。したがって、相続人が存在する場合には、選任申立てが却下されます。
 申立て時には戸籍謄本などの確認が必要ですが、家庭裁判所の調査で相続人が見つかることがあります。この原因としては、戸籍謄本の見間違いや、相続人の範囲の誤解などが挙げられます。特に、以下のケースで間違いやすいため注意が必要です。

・亡くなった兄弟に子供(甥姪)がいる場合
・両親が亡くなっていても祖父母が健在な場合
・非嫡出子も相続人となる場合

相続人がいることが判明した場合、申立ては却下され、相続財産清算人の選任は行われません。

相続財産が存在しない場合

 相続財産清算人は、相続財産を管理・清算する役割を担います。そのため、相続財産が存在しない場合には、清算する対象がないため、申立ては却下されます。また、相続財産が極めて少額である場合にも、家庭裁判所が選任する意味がないと判断し、却下される可能性があります。相続財産が少額な場合、手続き費用が高額になるため、申立てを行う必要がないこともあります。

予納金を支払わない場合

 相続財産清算人の選任申立てには、予納金の支払いが求められることがあります。予納金は、相続財産清算人に対する報酬や経費を賄うためのものです。相続財産が十分にある場合は、その中から経費が支払われるため、予納金は不要な場合もあります。しかし、相続財産が少ない場合は、家庭裁判所から予納金を請求されます。
 この予納金が支払われない場合、相続財産清算人の選任はされません。したがって、家庭裁判所から予納金の請求があった際には、速やかに支払う必要があります。

相続財産清算人(相続財産管理人)を選任する際に必要な費用とその内訳

 相続財産清算人を選任するための申立てには、いくつかの費用が発生します。ここでは、相続財産清算人を選任する際に必要となる主な費用を2つに分けて解説します。事前にこれらの費用を把握しておくことで、スムーズな申立てが可能になります。

申立て手続きにかかる費用

相続財産清算人の選任申立てには、いくつかの手続き費用が発生します。以下は、その主な内訳です。

収入印紙:800円分
連絡用の郵便切手:1,000円〜2,000円程度(家庭裁判所により異なります)
官報公告費用:5,075円
戸籍謄本取得費用:1,000円〜5,000円程度(取得する書類数によって変動)

 郵便切手の金額は申立てを行う家庭裁判所によって異なるため、事前に家庭裁判所に確認することが重要です。また、戸籍謄本の取得費用も、被相続人の戸籍状況によって変わります。

相続財産清算人の報酬となる予納金

 相続財産清算人の選任に際して、予納金が必要になる場合があります。予納金とは、相続財産清算人が業務を遂行するための報酬や経費を担保するための資金で、事前に裁判所に納める必要があります。

 相続財産清算人は、相続財産の管理、債権者への支払い、さらには国庫への納付など、さまざまな業務を担当します。これらの業務には経費がかかり、その分の報酬が支払われる必要があります。

予納金の相場:一般的には10万円~100万円程度。
 相続財産の規模や内容により予納金の額は異なります。

 相続財産が十分にあり、報酬や経費が相続財産からまかなえる場合は問題ありませんが、遺産が少額な場合は、これらの費用をまかなうために申立人が予納金を支払う必要があります。なお、清算人の業務が終了し、相続財産から報酬や経費が支払われた場合には、予納金は返還されます。

予納金を支払う前に必ず確認|相続財産清算人の申立てはプラスの財産がある場合に行うべき理由

 相続財産清算人の選任申立ては、相続財産が明らかに予納金よりも多くのプラス財産となる場合にのみ行うべきです。

 相続財産が十分にあれば、予納金を支払って相続財産清算人を選任することで、債権回収や財産管理がスムーズに進む可能性があります。しかし、もし相続財産がほとんどなく、債務ばかりが残っている場合には、申立てを行っても予納金が無駄になる可能性があるため、注意が必要です。

明らかにプラスの財産がある場合に申立てを

 相続財産清算人の申立てを検討する際には、まず相続財産がプラスとなるかを確認することが重要です。例えば、不動産や預貯金など明らかなプラス財産がある場合には、相続財産清算人の選任申立てを行うことで、財産を回収し、債権者への支払いを進めることが可能になります。

債務が多い場合は慎重に

 「債権ばかりが残っている」「プラスの財産がほとんどない」場合には、相続財産清算人を選任しても、回収できる財産がなく、結果的に予納金が無駄になってしまう可能性があります。
 例えば、家庭裁判所から予納金100万円を支払うように指示された場合、相続財産が全く回収できなければ、この100万円はただの費用負担となってしまいます。このような事態を避けるためにも、財産がプラスであるかを事前にしっかりと調査し、慎重に判断することが求められます。

予納金を払う価値があるかの確認

 相続財産清算人の選任申立てを行う前には、予納金を支払ってもプラスの財産が回収できるかどうかを確認しましょう。
 特に、相続財産の内容が不明確であったり、債務が多い場合には、相続財産の詳細な調査を行い、相続財産清算人を選任するかどうかを慎重に検討することが必要です。無駄な費用を避けるためにも、しっかりとした判断を行うことが重要です。

相続財産清算人(相続財産管理人)が選任されるまでの流れと必要な手続き

 相続財産清算人(または相続財産管理人)の選任は、家庭裁判所での手続きを経て行われます。ここでは、相続財産清算人が選任されるまでの一般的な流れを解説します。

相続財産清算人選任審理の申立て

 相続財産清算人を選任するためには、まず「相続財産清算人選任審理」の申立てが必要です。この申立てには、一定の条件と必要書類が揃っていなければなりません。

相続財産清算人の申立てができる人

 相続財産清算人の選任申立てを行えるのは、主に利害関係人または検察官です。利害関係人として該当するのは、以下のような人々です。

特別縁故者:被相続人と生計を共にしていた内縁の妻、事実上の養子、療養介護を行っていた者など
相続債権者:被相続人に対して債権を持っている人
相続財産を管理している者:相続放棄後も財産を占有している人
不動産の共有者:被相続人と共有の不動産を持ち、処分を必要とする人

 検察官が申立てを行う場合は、相続財産を国庫に帰属させる手続きが必要な場合です。申立ては被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。

申立てに必要な書類

 相続財産清算人の申立てには、多くの書類が必要です。以下はその主な内容です。

・申立書
・財産目録
・被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
・財産を証明する書類(不動産登記事項証明書、預貯金の通帳写しなど)
・利害関係を証する資料(戸籍謄本、金銭消費貸借契約書の写しなど)

 申立て前に入手できない書類があった場合でも、申立て後に追加提出することが可能です。家庭裁判所による審理・選任

 申立てが受理されると、家庭裁判所は相続財産清算人を選任するための審理を行います。審理では、相続財産の内容や利害関係人の状況を考慮し、最も適任な人物が選ばれます。

 候補者がいる場合は、その人物が選任されることもありますが、通常は弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることが多いです。相続財産の管理や清算を公平かつ専門的に行うため、第三者である専門家が選ばれることが推奨されています。

注意点

 相続財産清算人の選任申立てがすべて受理されるわけではありません。次のような場合、家庭裁判所は申立てを却下することもあります。

申立人に申立て権限がない場合:申立て権限があるのは、法定の利害関係人や検察官に限られます。申立て権
 限がない者からの申立ては却下されます。
相続人が存在する場合:相続人がいる場合、相続財産清算人の選任は不要となるため、申立ては却下されま
 す。
相続財産が存在しない場合:管理・清算すべき財産がない場合は、清算人を選任する必要がないため、申立て
 は却下されることがあります。
予納金が支払われない場合:相続財産清算人の報酬や経費に充てる予納金の支払いができない場合、申立ては
 受理されません。

 相続財産清算人の選任までの流れは、申立て → 審理 → 選任 という一連のプロセスを経て行われます。この過程で、申立人は必要な書類を揃え、利害関係があることを証明しなければなりません。選任が完了するまでに通常1〜2ヶ月の時間がかかるため、相続債権の回収を急いでいる場合には、早めの対応が必要です。

 相続財産清算人の選任は、相続財産を正しく清算し、債権者への支払いや財産の分配を適切に行うための重要なプロセスです。申立てを行う際には、申立て権限や費用、必要書類をしっかり確認し、スムーズな手続きを心掛けましょう。

相続財産清算人(相続財産管理人)選任後の手続きの流れ

 相続財産清算人が選任された後、相続財産の管理や清算が始まります。ここでは、相続財産清算人選任後の手続きの流れを詳しく解説します。手続きは主に5つのステップで進行し、それぞれの段階で必要な手続きを行います。

家庭裁判所による公告

 相続財産清算人が選任されると、家庭裁判所は速やかに公告を行います。この公告は、相続人が存在する場合にその権利を主張できるよう、6ヶ月以上の期間を設けて行われます(民法952条2項)。この手続きにより、相続人が現れるかどうか確認するための期間が設けられます。

(相続財産の清算人の選任)
第九百五十二条
2 前項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。
参考:e-GOV法令検索|民法第九百五十二条の二(相続財産の清算人の選任)

相続財産清算人による相続財産の管理開始

 相続財産清算人は、申立人や関係者から相続財産を引き継ぎ、正式に相続財産の管理を開始します。この引継ぎには、亡くなった人の現金、預貯金通帳、不動産の鍵などが含まれ、相続財産法人名義への登記変更も行われます。この時点で、相続放棄後の財産保存義務(民法940条1項)は解消されます。

 清算人は財産を適切に管理し、不動産や株式などの資産を換価するなどの処分を行います。財産の内容に応じて、管理や処分の方法が異なるため、適切な対応が求められます。

相続債権者や受遺者に対する請求申出の公告と弁済

 次に、相続財産清算人はすべての相続債権者および受遺者に対し、一定期間(2ヶ月以上)の間に請求申出を行うよう公告します(民法957条1項)。また、公告に加え、既知の債権者や受遺者には個別に請求申出の通知が送られます。

申出の期間が満了すると、相続財産清算人は法定の順位に基づき、債権者や受遺者への弁済を行います。弁済は債務の優先順位に従って行われ、清算が進められます。

(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
第九百五十七条 第九百五十二条第二項の公告があったときは、相続財産の清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、二箇月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、同項の規定により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間内に満了するものでなければならない。
参考:e-GOV法令検索|民法第九百五十七条(相続債権者及び受遺者に対する弁済)

特別縁故者への相続財産の分与

 相続人が見つからなかった場合、公告期間満了後3ヶ月以内に、特別縁故者は家庭裁判所に財産分与の申立てを行うことができます(民法958条の2)。特別縁故者とは、被相続人と生計を共にしていた内縁の配偶者や療養介護を行っていた者などを指します。家庭裁判所の審判により財産分与が認められた場合、相続財産清算人はその内容に従い、特別縁故者に財産を分与します。

残余財産の国庫への帰属

 特別縁故者への分与が終了した後も財産が残っている場合、その残余財産は国庫に帰属します(民法959条)。相続財産清算人は、残った財産を国庫に引き渡すための手続きを行い、すべての財産が国庫に帰属した時点で職務が終了します。ただし、不動産の共有持分などの場合は、国庫ではなく他の共有者に帰属します(民法255条)。

(残余財産の国庫への帰属)
第九百五十九条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。
参考:e-GOV法令検索|民法第九百五十九条(残余財産の国庫への帰属)

(持分の放棄及び共有者の死亡)
第二百五十五条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
参考:e-GOV法令検索|民法第二百五十五条(持分の放棄及び共有者の死亡)

特別縁故者が財産分与で取得する財産は相続税の課税対象に

 特別縁故者が財産分与によって相続財産を取得した場合、その財産は相続税法に基づき、相続税の課税対象となります。これは、特別縁故者が被相続人から遺贈を受けたとみなされるためです(相続税法 第四条)。


(遺贈により取得したものとみなす場合)
第四条 民法第九百五十八条の二第一項(特別縁故者に対する相続財産の分与)の規定により同項に規定する相続財産の全部又は一部を与えられた場合においては、その与えられた者が、その与えられた時における当該財産の時価(当該財産の評価について第三章に特別の定めがある場合には、その規定により評価した価額)に相当する金額を当該財産に係る被相続人から遺贈により取得したものとみなす。
2 特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額が確定した場合においては、当該特別寄与者が、当該特別寄与料の額に相当する金額を当該特別寄与者による特別の寄与を受けた被相続人から遺贈により取得したものとみなす。
参考:e-GOV法令検索|相続税法第四条(遺贈により取得したものとみなす場合)

特別縁故者が相続税の課税対象となる理由

 特別縁故者が家庭裁判所から相続財産を分与された場合、その取得した財産は相続税法上、遺贈として扱われます。遺贈を受けた人は相続税の課税対象となるため、特別縁故者も相続税を支払わなければなりません。

 特別縁故者が財産分与を受ける際は、通常の相続人と比べて、次の2つの理由で相続税の負担が大きくなる可能性があります。

相続税2割加算の対象となる
特別縁故者には適用されない控除や特例がある

特別縁故者は相続税2割加算の対象

 特別縁故者が財産分与を受ける場合、相続税が2割加算されます(相続税法 第十八条)。これは、被相続人の配偶者や1親等の血族以外の人が財産を取得した際に、相続税額が通常よりも高くなるという規定です。

(相続税額の加算)
第十八条 相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続又は遺贈に係る被相続人の一親等の血族(当該被相続人の直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失つたため、代襲して相続人となつた当該被相続人の直系卑属を含む。)及び配偶者以外の者である場合においては、その者に係る相続税額は、前条の規定にかかわらず、同条の規定により算出した金額にその百分の二十に相当する金額を加算した金額とする。
2 前項の一親等の血族には、同項の被相続人の直系卑属が当該被相続人の養子となつている場合を含まないものとする。ただし、当該被相続人の直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失つたため、代襲して相続人となつている場合は、この限りでない。
参考:e-GOV法令検索|相続税法第十八条(相続税額の加算)

特別縁故者には適用されない控除や特例

相続税にはいくつかの控除や特例が用意されていますが、特別縁故者には適用されない控除や特例も存在します。これにより、特別縁故者は相続税の負担が重くなる可能性があります。

【特別縁故者が適用できない控除や特例の例】

配偶者控除:配偶者が相続する場合、相続税が大幅に軽減されますが、特別縁故者には適用されません。
相次相続控除:短期間に相続が続いた場合の税負担を軽減する控除ですが、特別縁故者には適用されません。
障害者控除未成年者控除:障害者や未成年者が相続する際の軽減措置ですが、特別縁故者はこれを利用でき
 ません。
小規模宅地等の特例:相続財産に不動産が含まれている場合に適用される宅地面積に対する軽減措置ですが、
 特別縁故者には適用されません。

ただし、相続税の基礎控除3,000万円は特別縁故者にも適用されます。分与される財産が3,000万円以下であれば、相続税が課税されない点は知っておくべき重要なポイントです。

まとめ

ここまで相続財産清算人について解説してきましたが、相続に関してお悩みの方は、齋藤久誠公認会計士・税理士事務所にご相談ください。

・相続放棄すべきかどうか悩んでいる
・特別縁故者として財産分与を受けたいが、進め方が分からず不安
・債権回収が可能か知りたい

 こうした相続に関する不安や悩みがある場合も、当事務所にお任せください。私たちは相続問題を包括的にサポートし、お客様にとって最良の相続手続きを実現いたします。

 当事務所は相続に関するあらゆる専門家との連携しております。相続税のプロフェッショナルをはじめ、弁護士、司法書士、不動産鑑定士など、あらゆる相続関連の専門家と連携し、幅広い相続の悩みに対応することが可能です。

 相続税は非常に複雑であり、経験が浅い税理士では、控除や特例、財産評価などが適切に行われず、余計な税金を払うリスクがあります。相続税に特化した専門が対応することで、余計な税負担を防ぎ、最適な相続手続きをサポートします。相続に関しては、専門知識と経験豊富な税理士に相談することが重要です。

 相続手続きの多さや複雑さに悩んでいる方、相続税の控除や特例が適用できるか分からない方も、当事務所にご相談いただければ安心です。各分野の専門家が連携し、スムーズかつ迅速に解決へ導きます。

 相続の問題でお困りの方は、ぜひ齋藤久誠公認会計士・税理士事務所へお気軽にご相談ください。

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